メリアと怪盗伯爵
茶の髪とお揃いの上下に、白いチョッキという井出達のモールディング伯爵は、それだけれ彼が相当洒落たセンスを持ち合わせているということを伺わせた。
「急に押しかけてしまって申し訳ありませんでしたね」
爽やかな笑みを浮かべ、クラーク男爵の手を握るモールディング伯爵。
はははと笑うクラーク男爵だが、内心では(来るなら来るともっと早く連絡すれあいものを!)を考えているに違い無い。
「いや、しばらく別荘で休暇を過ごしていたんだけれど、ちょうどその帰りにこの近くを通りががって、貴方の顔を思い出したもので」
屋敷の入り口で、主人の後ろに控えていたメリアとテレサであったが、メリアの隣で確かにテレサが「ほう」と小さな吐息を漏らしながらモールディング伯爵に見とれていることに、メリアは勘付いていた。
「今日は友人も同乗していましてね」
モールディング伯爵がそう言ったとき、馬車からもう一人の紳士が降り立った。
「エドマンド・ランバート伯爵。僕の十年来の優秀な友人です」
藍色の上下に、黒っぽい縦縞の入ったチョッキのランバート伯爵は、ハットを優雅に外すと、丁寧に頭を下げた。
「初めまして、エドマンド・ランバートです。貴方の話は以前から彼からよく聞いていますよ」
ハットの下から現れた美しい金の髪が、利発そうな彼の印象を和らげていた。