メリアと怪盗伯爵

「だけど・・・」
 テレサの言葉に、メリアが「だけど?」と聞き返す。

「ここからは出られないけれど、調理場の裏口からなら出られるんじゃないかしら? 少し屋敷の中を歩かなきゃならないけれど・・・」
 メリアは大きく頷いた。
 確かに、調理場の裏からも外へ出ることは可能だ。
 けれど、同時にそこまでは少し離れている。屋敷内で誰かに会う可能性も有り得るし、危険であることには変わり無い。

「行ってみましょ? うまくいけば屋敷から出られるかもしれないし」
 にっこりとメリアはテレサに笑いかけた。
「そうね」
 今、テレサは助けに来てくれた友人がひどく心強く思えたに違いない。そして、彼女の人の良さを再確認していた。







 アドルフ・デイ・ルイス侯爵は、アダム・クラーク男爵の不正金の件を、一刻も早く片付けてしまいたいところだった。
 このメイグランド王国、女王イザベラの許可を得て、彼はここ数日、こうしてアダム・クラーク男爵の屋敷へ調査として出入りしていた。

「この部屋の調査は?」
 彼がある伝手で最近調達してきた調査員の一人に、デイ・ルイス侯爵が訊ねた。

「いいえ、まだ。ここは長く使用されていない部屋のようでしたので、後回しにしておりました」
 調査員は、デイ・ルイス侯爵に済まなさそうな目を向けた。

「一体何の部屋だ?」
 そう言い、彼はドアノブに手をかけた。
「古い書斎のようです」
 調査員の男がそう言い終わらないうちに、ドアを開けてしまっていたデイ・ルイス侯爵。彼は空けた途端に真っ白な埃がぶわっと吹き上がり、咳き込んだ。




 



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