メリアと怪盗伯爵
調査員はどうやらデイ・ルイス侯爵にそれを忠告しようとしていたようで、静止を促す右手が宙で行き場を失くし、そのままその手を後ろに回して誤魔化した。
「あー、えっと・・・。何年も使われていなかったせいか、埃がすごいんですよ」
デイ・ルイス侯爵は、それを早く言ってくれとばかりに、恨めしそうな目を調査員の男に向けた。
「君は引き続き、彼の自室の調査にあたってくれ」
彼を行かせた後、デイ・ルイス侯爵は少し俟った埃が落ち着いたところで、あまり深く部屋の空気を吸い込まないようにしてその部屋に足を踏み入れた。
(なるほど・・・、確かに古いな)
そんなことを思いながら、ふと床を見下ろし、そしてそのまま立ち止まった。
(足跡・・・?)
積もった埃の上に、足跡が見つかったのだ。
その部分がうっすらと積もった埃が薄くなっているのが分かる。
(最近になって、ここを使った人間がいるということになる・・・)
彼はこの部屋がどうも匂った。
広い屋敷の中でも、特に怪しい部屋だと直感でそう思ったのだ。
そうなれば、なんとしても、この部屋を探さなくてはならいない。
アダム・クラーク男爵が不正金に携わっていたという証拠を。そして、これはまだ誰も知らないが、デイ・ルイス侯爵はそれよりも先に、調査員よりも早く見つけ出さなければならないものがあったのだ。
”アダム・クラーク男爵との契約書類”
そこには、男爵から不正金の一部を彼が受け取ったいう事実が書き入れられているという訳だ。
(アダム・クラーク男爵が、自室などに置いている筈は無い。あの用心深い男ならば、きっと、すぐには見つからない場所に隠し入れる筈だ・・・!)
デイ・ルイス侯爵は、部屋をゆっくりと見回した。