メリアと怪盗伯爵
「なるほど・・・。だが、イザベラ女王陛下の許可が降りていなければ、この屋敷の出入りは許されない」
ましてや、アダム・クラーク男爵の疑惑を信じ切っている女王イザベラが、彼の救済処置になるようなものを、許可する筈も無い。
「ええ。女王陛下には直接謁見して許可は戴いています。ご心配無く」
エドマンドは口元に作り笑いを浮かべた。だが、その目は真に笑ってはいない。
「女王陛下の許可を・・・?」
デイ・ルイス侯爵は顔色を一つも変えないまま、そう聞き返す。彼には、とても女王イザベラが許可を出すとは思なかったのだ。
「勿論、貴方の考え通り、初めは渋っておられたが、弁護を許すことで、女王陛下の国民への心配りはやがて大きな波紋となり、メイグランド国民の大きな信頼を生むと説得したところ、快く許可を降ろしてくださったという経緯です」
メリアは、突然の彼の登場に戸惑いはしたが、今程この男を頼もしく感じたことは嘗て無かった。そして、彼が実は物凄く利口で、抜け目の無い人物だということを改めて感じ入っていた。
デイ・ルイス侯爵は、うまい具合に邪魔が入ってしまい、不本意な思いでいっぱいな筈だ。
「それよりも、こちらの連れが何か不都合でもしたのでしょうか?」
エドマンドの言う“連れ“いるのは、明らかにメリアのことのようだった。
メリアは咄嗟的に縮み上がる。
「ミス・メリアは貴方の連れだったか、ランバート伯爵」
デイ・ルイス侯爵はメリアを見つめ、そう返答する。
「ええ。彼女は僕の屋敷に滞在中でして」
そのエドマンドの言葉を聞いた途端、デイ・ルイス侯爵はすぐ様「滞在…?」と尋ね返していた。
「彼女は僕の遠縁にあたり、しばらくロンドローゼで滞在する予定です」
メリアはう言ったエドマンドの表情を盗み見る。が、いつもと変わらない様子。
でも、彼女には彼がいつもよりも些か不機嫌にも見えた。
「・・・そうか、それは驚いた。まさか、ランバート伯爵とミス・メリアがそんな関係とは・・・」