メリアと怪盗伯爵
そう言ったデイ・ルイス侯爵は、黒く謎に満ちた目をメリアに向けて微笑んだ。
「ミス・メリア。あなたにまたお会いできて光栄ですよ。こんな形で無ければ、昼食にももお誘いしたいところなのですが、生憎わたしは公務中でして・・・」
優しく手をとられ、メリアは呆気に取られたように彼を見つめた。
「お送りしたパーティーの招待状は届いたでしょうか?」
メリアははっとして心の中で声をあげた。
彼が言っているのは、例の”仮面舞踏会”のことらしい。
「え、ええ・・・」
困ったようにメリアが返答すると、デイ・ルイス侯爵は「よかった」と胸を撫で下ろした。
「では、お待ちしていますよ、ミス・メリア」
メリアの手の甲に口付け、デイ・ルイス侯爵はからかうように彼女を上目遣いで見つめた。
メリアは顔を真っ赤にしてしゅんと下を向いてしまう。
「それでは、僕はそろそろ。彼女をこのようなところに連れて来てしまい、失礼を・・・。まさか、こんなところまで僕に”くっついて”来ていたとは、思わなかったもので」
エドマンドがやけに淡々とした口調で口を挟んだ。
「帰るぞ」
エドマンドが、彼に簡単な会釈をして立ち去ろうとすると、メリアは同時にエドマンドにぐいっと腕を引っ張られた。
振り返り様に、メリアはなんとかデイ・ルイス侯爵に小さく頭を下げた。その視界の端で、彼が可笑しそうに微笑んでいるのが見えた。
腕を引くエドマンドは一度も振り返ることなく、ずんずんと早足で進み、引っ張られるメリアは小走りだ。その後を必死にテレサが追って来る。
屋敷の外へ出た瞬間、エドマンドが急に立ち止まったので、メリアが彼の背に顔から突っ込んでしまった。
「うぷっ」
一体どうしたのかとゆっくりと彼の斜め下から表情を伺おうとすると、彼が勢いよくメリアを振り返った。
「・・・こんなことだろうと思っていた」