メリアと怪盗伯爵
「ああ、上達してきているよ。エドも今度一度見てあげて」
必死にそれを否定しようと、メリアがパトリックの袖口を掴む。
「ねえ。それより、二人はケンカでもしたのかい?」
パトリックは事も無げにそんなことをズバリと質問したのだ。
「し、ししし、してません!」
メリアの必死な表情と、彼女が袖口を掴む手に力が込められたのを感じ、パトリックはははんと目を細める。
「そうかい? なんだか焦っているところが妙に怪しい気がするんだけれど・・・」
「何も無い。こんなところで油を売って無いで、お前も少しは仕事をしろ!」
エドマンドが勢いよくデスクの上にあったコインをパトリックに向けて発射した。
「おっと。エドが取り乱すなんて、ますます怪し・・・」
「黙って帰れ。忠告しておくが、お前の領地内の仕事は今回は一切俺は手伝う気は無いからな」
そう釘を刺され、パトリックは肩を竦めた。
「わかっているよ。もともと君に手伝わせる気なんてさらさら無いさ。僕だって、一領主なんだ。自分の仕事は責任を持ってこなすさ」
優雅にドアに向き直り、輝やかしい笑みを浮かべるパトリックに、エドマンドは”いつも納期直前に、バタバタするのは一体誰だ”と 口を挟むのは止めておくことにした。
「ごめんね、メリア。もう少しレッスンに付き合ってあげられれば良かったんだけれど、エドの許可が下りないみたいだ。・・・しばらく僕も仕事が立て込むだろうから、毎日は来られなくなるだろうから・・・」
そう言ったパトリックの茶の瞳が、ひどく淋しそうにメリアを見つめる。
「そうですか、頑張って下さいね。パトリック様」
にっこりと笑みを送ってくれるメリアの手を取り、パトリックが目を潤ませる。
「ああ・・・! もう、パーティーまであまり日が無いというのに・・・。ごめんよ、メリア・・・! 不安で不安できっと夜も眠れないだろうに・・・」