メリアと怪盗伯爵
「い、いえ!」
内心、レッスンが無くなることを喜んでいたメリアは、はっとしてパトリックにそう返答した。
(パトリック様がこんなにも心配してくださっているというのに、わたしったら、なんて嫌な人間なのかしら・・・!)
こっそり心の中で反省していたメリアだったが、パトリックのとんでもない提案にまたもや衝撃を受ける。
「そうだ! エドが僕の代わりのメリアのレッスンをしてあげればいい!」
(!? ダメダメ、絶対ダメ・・・!)
メリアの考えとは反対に、パトリックは自らのアイデアに満足しているらしく、ぎゅっとメリアの手をとり微笑んだ。
「メリア! 良かったね。エド程完璧な先生はいないよ? 彼に任せておけば、きっとパーティーまでにダンスが踊れるようになる筈だから」
白く柔らかな笑み。
メリアが内心凍りついていることなど、パトリックは知る由も無い。
「じゃ、メリア。君にしばらく会えないのはすごく淋しいけれど、僕はさっさと自分の仕事を終わらせて、また君に会いに来れるように頑張るよ! 毎日手紙を書くからね」
決心を固めたように、ぐっと胸の前で拳を握ると、パトリックはメリアを見つめ大きく頷いた。
一方、メリアは放心している。
パトリックの言葉の半分も頭には入っていない。
なにやら別れの言葉をいくつか述べた後、彼が部屋を退出していった後、メリアが一人エドマンドの自室に載り残されてしまった。
パトリックと一緒にどれだけ部屋を出たかったことか・・・。
無言に耐え切れず、メリアがとうとう勇気を出してデスク前に腰かけたエドマンドにちらりと視線をやる。
気だるげに深く腰掛け、背もたれにぐったりともたれ掛かっているエドマンドのタイはすっかり緩められ、そんな彼の姿がパトリックとは違うどこか色っぽい大人の男の雰囲気を醸し出していた。