メリアと怪盗伯爵
「あ、あの、ランバート様・・・? ティーでもお入れしましょうか?」
気がつけば、メリアはふいに彼にそんな言葉をかけてしまっていた。
重そうな目蓋で、しばらくメリアをじっと見つめていたエドマンドだったが、
「君は”客人”なんだ。大人しくしていろ」
と、気だるげに返答した。
やはり、令嬢としての暮らしはメリアにとってはまるでしっくりこず、侍女としての本質が気を抜けば見え隠れしてしまうようだ。
しまった、と内心小さな失敗に呟き、メリアは兎も角この部屋から退出することに決めた。本当は、疲れた彼に温かいティーの一杯でもご馳走したい気持ちはあったのだが・・・。
(一体、わたしは何の為にここでこうしているのかしら。パトリック様に恩返しをするどころか、今やただのお荷物だわ・・・。ご親友のランバート伯爵にまで迷惑をかけている上、ティーの一杯も淹れられないなんて)
うんざりしたような溜息を溢し、メリアは退室前にもう一度だけエドマンドを振り返った。
しかし、デスク前の椅子に腰掛けたまま、彼が無防備な姿で眠りこけている姿がそこに存在した。
(眠ってる・・・??)
どれだけ疲れているのだろうか。
腕組みしたまま、エドマンドの瞳は固く閉じられたままだ。
引き寄せられるように、メリアは無意識に彼の前へとゆっくりと歩み寄って行く。
すぐ近くまで移動してきていても、彼は全くメリアに気付くことなく眠り続けている。
いつもは不機嫌な表情を浮かべている顔も、眠っているときは本当に穏やかで、この整った顔が普段あれ程毒を吐くなんて、この寝顔を見ただけではとても想像できない。
「・・・寝顔まで完璧な方なんだわ・・・」
メリアは小さくそう呟いた。
そう言いながらも、どういう訳か顔が熱くなり、メリアはぶんぶんとその熱から逃れようと頭を振った。
(まあ、メリアったらなんてこと! 人様の寝顔をじろじろ見るなんて! やめよ、やめやめ!)