メリアと怪盗伯爵
 
 メリアは、すぐさまエドマンドの傍から離れた。
 
(ああっ、わたしったら、いつからこんな不埒な女になったんでしょう・・・)
 そんな自分にうんざりしながら、メリアは頭を抱えながらブランケットに手を伸ばした。

(パトリック様の屋敷でも、寝ているパトリック様を毎日のように起こしてさしあげてもいたのに、わたしったら、何をど・・・動揺して・・・)
 メリアは百面相で、心の中でぶつぶつと呟きながらブランケットをそっとエドマンドの肩にかけてやった。
 彼は一向に起きる気配は無い。

 そんな彼の様子に安心して、メリアはそっと部屋を退出した。
 ここのところ、立て込んでいたせいだろうか、普段はなかなか人前で隙を見せたりしないエドマンドだったが、メリアがすぐ近くにいる状態で、ああして眠りこけてしまう程、きっと疲労がピークに達していたのだろう。

 エドマンドの疲れた様子が気にかかって仕方の無いメリアだったが、厄介者以外の何者でも無い自分が、この屋敷で世話になっているという事実だけでも心苦しいというのに、図々しくも彼の仕事の内容に首を突っ込むことなど到底できる筈も無く・・・。

 仕方が無いので、メリアは彼の部屋から退出した後、大きく息を吸い込んだ。
 そして、パトリックに懇切丁寧に教えてもらったダンスのステップを一人で踏んでみる。

 ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー。
 
 勿論今はパートナーは存在しないが、メリアは透明人間と手を取り、ゆっくりとステップを踏む。
 足元ばかりに気をとられていると身体の動きがどうしても固くなってしまう。
 
 やっぱり上手くいかないが、有り難いことに、このステップを練習する間は、さっきまでの動揺を考えずに済みそうだ。

「右・・・、左・・・」
 メリア自身も、どうしてエドマンドの部屋の外でこんな練習を始めたのかと聞かれれば、きっと答えることはできないだろう。
 ただ、何もせずにいたら、メリアの頭の中にはどういう訳か彼の無防備な寝顔が鮮明に浮かび上がってくるせいだ。
(も、もうっ!)
 気を抜けばまた動揺が蘇りそうになり、メリアは懸命に頭からそれを追い払おうとする。
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