メリアと怪盗伯爵
(これ以上、パトリック様やランバート伯爵の足を引っ張るようなことはしないようにしなくちゃ!)
舞踏会で、ダンスを踊れないとなれば、明らかにランバート伯爵の名に傷がつくだろうことは予想できた。それに、パートナーとして共に出席することとなっているモールディング伯爵の名にも・・・。
まさに、責任重大。
パトリックばかりに頼っていたって、どうしようも無いだけだ。
「ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー」
どれくらいの時間こうしていただろうか・・・。
約半刻が過ぎた頃だろうか。
「右・・・、左・・・」
「君はなぜこんなことろでステップの練習をしている?」
という声が突然かけられた。
「ふぇっ!?」
鼠でも踏んずけたような声をあげ、メリアが透明人間とのダンスを一時停止させた。
「パトリックの奴はちゃんと姿勢の基礎を君に教えたのか?」
びっくりした顔で振り返ったメリアの目に、開いた自室のドアに凭れ掛かるようにして腕組みするエドマンドの姿が飛び込んできた。
「い、いい、いつからご覧に・・・??」
顔から火が出そうとはまさにこの事。火が出るどころか、噴出しそうだ。
「少し前からだ。あまりに廊下が騒がしいものだからと覗いてみれば、君が」
さっきまでの無防備な寝顔はまるで嘘のように、彼の表情はまたいつもの隙の無いものへと戻ってしまっている。
(嘘でしょ・・・。わたし、恥ずかしくて、もう生きてゆけない・・・)
半べそをかきかけているメリアに、エドマンドの遠慮の無い一言が突き刺さる。
「別に無理して踊らなくてもいい。・・・というよりかは、君のはあまりに酷い。体調が悪いというのを理由に、ダンスは辞退しておくのが懸命だ」
無慈悲なエドマンドの残酷な言葉に、メリアは頭に大きな鉄鍋で叩かれたような衝撃を受けた。