メリアと怪盗伯爵
メリアは、調理場の一角に置かせてもらっている、自らが選別して作り上げた手作り茶葉の入ったポットを取りに向かった。そこへ、眠気に利くローズマリーの葉をを調合し、お手製のティーバッグに詰めてゆく作業を開始した。
(ダンスがでいきなくたって、わたしにはティーがあるわ)
準備を進めるメリアの顔をうきうきとしている。
メリアがティーセットの準備を完了して、エドマンドの自室に戻るまでの時間は左程多くはかかってはいない。
彼の部屋に戻ったとき、彼は何事も無かったかのようにデスクワークを始めていた。
ゴクンと唾を飲み込み、緊張した手つきでメリアは慎重にティーカップにティーを注いでゆく。
温かい湯気が立ち昇り、ローズマリーのいい香りが辺りに広がった。
「お待たせしました」
大切な書類に溢さないように、細心の注意を払い、メリアはほぼ完璧に仕事を成し終えた。
ティーの味もきっと悪くは無い筈。
仕事に集中しているのか、「ああ」と気の無い返事をしたまま、エドマンドは視線を書類に落としたまま、そっとティーカップに手を伸ばした。
(あっ)
彼の口にティーが入るのを、緊張した面持ちでメリアはじっと待った。
(お口に合いますように・・・)
「ローズマリーか。少しは目が冴えそうだ」
相変わらず書類に目を通してはいたが、エドマンドはそう言った。
メリアはぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべ、心の中で”やった”と叫んだ。
「・・・ダンスのステップだが、中庭でしてみろ。前日までに今の状態のままだったなら、君は舞踏会で病人扱いだ」
まるでなんでも無いようなことのように、エドマンドはさらっとそんなことを付け足した。