メリアと怪盗伯爵
「メリア! メリアったら!」
「へっ!?」
はっとしてメリアは顔を上げた。
「一体何をぼんやりしていたの?? 早くこのお皿を運んじゃいましょう」
(わたしったら、仕事中に一体何を考えていたのかしら・・・)
ふるふると頭を振り、メリアは両手でパンと自らの頬を叩いて気合を入れ直す。
ワゴンに、湯気の立ち昇るスープの入った器を載せ、メリアは会食の広間へと緊張した面持ちで向かう。
それでも尚、薄暗がりに浮かび上がった艶やかな茶の髪が彼女の頭から離れない。
(まさか・・・。彼は大怪盗よ・・・? あんな傷を負っていたんだし、こんなところへのこのこ現れる筈なんて無いわ・・・)
そう自分に言い聞かせながら、メリアはテーブルの上にスープの皿を並べてゆく。
「失礼。これはなんのスープ?」
突然の質問に、メリアは驚きひどく動揺する。
振り返ると、すぐ近くにモールディング伯爵が優しげに微笑んでいた。
「え、ええと、このスープは南瓜とじゃが芋のスープです」
動揺して手先が震えるのを悟られまいと、メリアは慌てて手を後ろに引っ込める。