メリアと怪盗伯爵
「メリア、泣かないで」
テレサに頬を拭われて、初めてメリアは自分が涙していることに気付く。
「あれ、わたし・・・」
テレサは優しくメリアの頭を抱くように包んだ。
「色々大変だったものね・・・。でも、大丈夫。これからは、すぐ近くにわたしがいるから」
メリアは何度も頷いた。
ここのところ、ずっと気を張り続けていたせいか、急に気が緩んだせいだろうか。
メリアは、一番の親友にとびきりの笑顔を向けた。
そして、こんな素敵なサプライズをしてくれたパトリックに、心から感謝しながら・・・。
メリアがテレサとの再会で涙しているのを見て、なんだかジョセフは心配そうな眼差しを部屋の隅から向けている。
そのことに気付き、テレサは慌ててその場を取り繕った。
「お嬢様ったら、ほんとに寂しがり屋ですのね、ホホ」
確かにこれは気を遣うわね、とばかりに、テレサはメリアに密かに視線で訴えかけている。メリアもそれで彼女の言いたいことを察し、小さく頷いた。
「ジョセフさん、すみません。彼女にぜひ手作りのティーをご馳走したいんです。調理場から、茶葉の入ったポッドと、専用のティーセットを持って来ていただけませんか?」
メリアのお願いを、ジョセフは快く了解してくれた。
本当は、単に二人きりで話す時間が欲しかっただけだったのだが・・・。
「ああ、メリアが本当のご令嬢になってしまったみたい」
ジョセフがいなくなったのを確認してから、テレサがからかい半分にそう口にした。
「まさか! わたしはやっぱり侍女。どうやったって侍女でしか無いの。身なりだけそれらしくしたって、やっぱり中身は只の侍女だってことは、自分でもよく分かっているわ・・・」
しゅんとしたメリアに、テレサが慌てて付け足した。
「で、でもね、やっぱりパトリック様って素敵よね。わたしの目に狂いは無かった。だって、メリア、あんなに親切で優しい紳士が他にいる?? 彼こそがきっと闇の騎士(ダーク・ナイト)に違い無いわ!」