メリアと怪盗伯爵
 
 急に興奮気味に話し始めたテレサに、メリアが苦笑を浮かべる。
 けれど、こういうところが彼女の欠点でもあり、そして愛嬌でもあった。

「ええ。パトリック様は本当に素敵な人よ。・・・けれど、たぶん意外な面も大きいと思うわ」
 メリアが言っているのは、パトリックの子どもっぽさのことだ。
 だが、彼がその子どもっぽい姿を見せるのは、本当に数少ない人達にのみだ。それ以外の場では、紳士で素敵な男性を常に演じているのだから。

「それって、どういうこと? やっぱり、女性好きっていう噂は本当なのかしら?」
 キラリと一瞬テレサの情報網の目が光った。
「そうね・・・、女好きというよりかは、その大半はほぼ無意識に白い笑顔を振り撒いて歩いてらっしゃるせいじゃないかしら・・・」
 これは、セドリックの常の口癖だ。

「まあ、それは厄介ね・・・。強敵が多いことでしょう」
 じっと目を細め、またテレサの妄想が繰り広げられている。彼女の頭の中では、常に甘い妄想が行き交っている訳だ。

「それに比べて、エドマンド・ランバート伯爵はどうなのよ。客人を放置して自分は日中ずっと屋敷を留守にしているですって? ひどい人ね・・・。そりゃ容姿は完璧だし、仕事はできるし、名を上げているしで、まるで非の打ち所の無い人なのは分かるけれど」
 珍しくテレサが不機嫌な様子でそう溢した。
「初めて旦那様を訪ねて来られたときから、何か気難しそうな人だって感じていたけれど、その予想も外れて否買ったみたいね」

「でもね、テレサ。エドマンド様も本当はいい人なのよ? こうして、厄介者でしかないわたしを屋敷に置いてくださっているし・・・」
 慌ててフォローしようとするメリアに、テレサが言う。
「何言ってるの、メリア。そもそも、あなたが屋敷をクビになったのはあの人のせいでしょ? これくらいしてくれていたって、当然でしょう」
 そう言われたときに、メリアはどういう訳か少しテレサに腹立ちを覚えてしまった。

「そんなことないってば」
「そうかしら? 本当は毎日厭味を言わたりなんかしてるんじゃない?」

 まるでメリアの言葉を信用しないテレサは、完全にエドマンドを悪者扱いし始めている。

 

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