メリアと怪盗伯爵
そしてその晩のこと、メリアにもう一つの出来事が起きた。
「あら…?! いつの間にこんな時間になったのかしら!」
ジョセフはすでに部屋から退出し、今はメリアとテレサの二人きりだ。エドマンドはまだ帰っていない。 あまりに話に夢中になりすぎていた為に、時間が過ぎるのをついつい忘れてしまっていたのだ。
「ふぁ…。さすがに少し眠いわ…」
テレサが欠伸をしたのを機に、二人はここでお開きにすることに決めた。
メリアはテレサを空き部屋に案内した後、眠い目を擦りながら、ランバート伯爵家の長い屋敷の廊下を歩いていた。
連日のダンスの練習のせいか、随分足が重く感じる。
(そうだ、練習しなきゃ…)
舞踏会までもうあまり時間が無いことを思い出し、メリアは静かにステップを踏み始めた。
昼間のように明るい日差しが差し込む屋敷とは違い、夜の屋敷はどこか淋し気だ。
ずっと裸足でのステップ練習ばかりをしてきた為に、今のように靴を履いた状態で踊るのは、かなり久しぶりだった。
誰もいない廊下に、メリアのステップを踏む足音が響き渡る。
「あ」
ドンと肩が何かにぶつかり、メリアは思わず声をあげる。