メリアと怪盗伯爵
「ありがとう」
にこりと微笑んだモールディング伯爵の瞳は柔らかな薄茶。
天使のような微笑みに、メリアが咄嗟に視線を足元へと落とす。
なぜか高鳴る鼓動。
ひょっとして、彼かもしれない。
そんな期待が胸を駆け巡ってゆく。
けれど、別人かもしれない・・・。
難しい顔をしたまま、メリアは隣の席のランバート伯爵の前にスープの皿を静かに置いた。
「ここの家の侍女は、客人にそんな顔で接するよう教育されているのか?」
皿を置いて下がろうとしたメリアの耳元で、確かにそう囁かれた。
一瞬のことで訳が分からず、メリアはランバート伯爵のしれっとした横顔を見つめた。
きっと、すぐ隣に座っているモールディング伯爵も、この屋敷の主人であるクラーク男爵さえも気付いていない。
一瞬空耳だったのだろうか? と首を傾げるが、どう考えてもあれはランバート伯爵がメリアに対して発した言葉に違いない。