メリアと怪盗伯爵

 すっかり身体の力も抜け、メリアは別人のように軽やかなステップを踏み始めた。
 その表情は柔らかく、上を向いている。
 
(ほんとだ・・・。足が勝手に動いている・・・)
 メリアは、ひどく驚いていた。
 あんなにひどいダンスを踊っていた自分が、今こうしてエドマンドにリードしてもらいながら、しっかりとダンスを踊っていることに。
 そして、踊ることがこんなにも楽しいことだったと、初めて気付いた。

 しばらく時間も忘れ、メリアはエドマンドとのダンスを心から楽しんでいた。

 が・・・。メリアは途中異変に気付いた。
 
 暗がりのエドマンドの横顔に、うっすらと汗が浮かび上がっていたこと。
 時折、つらそうに目を伏せるが、次の瞬間にはまるで何でもなかったようにメリアをリードする凛とした様子を見せること。そして何より、メリアの手を取った彼の手が異様に熱かったことに。

「・・・あのっ」

 メリアは勇気を出して言葉を発した。
 急に足を止めたメリアに、エドマンドが黙ってメリアを見つめた。

「わたしの思い違いならいいんですが・・・、エドマンド様、どこか体調が悪いのでは無いですか?」
 それを聞いた途端、エドマンドはふっと口元に笑みを浮かべた。
「ああ、気のせいだろう」
 急に他所他所しい態度に変わり、エドマンドはメリアの横を通り抜けた。

「エドマンド様?」
 慌ててその後を追うメリアを振り向きもせず、エドマンドは言った。
「あれだけ踊れば十分だろう。当日はパトリック・モールディング伯爵が君の下手なステップをリードしてくれるだろうから安心して休め」

 メリアは思い切って彼の服の袖を引いた。
「エドマンド様」
 不機嫌に振り返ったエドマンドは、「何だ」とでも言いたげな目でメリアを見つめた。

「ほんとのことを仰ってください。何とも無い筈ないです、だって・・・」
 メリアは強引だとは理解しながらも、精一杯背伸びして、彼の額に手を宛がった。




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