メリアと怪盗伯爵
「ひどい熱・・・!」
エドマンドは黙ったまま、彼女の手を額から取り去った。
「何とも無い。君は部屋へ戻れ」
「戻りません!」
はっきりとそう言い切ったメリアに、エドマンドがじっと目を細めた。
「ジョセフさんを呼んで来ます。それから、お医者様も・・・」
そう言いかけたメリアに、エドマンドが言葉を被せた。
「誰も呼ぶんじゃない。これ位の熱、一晩眠れば下がる」
メリアは驚き彼を見返す。
「そんな!」
「いいから君は部屋へ戻れ。それから、このことは誰にも言うな、いいな?」
忠告するように、エドマンドは高熱のせいかいつもよりも潤んだ目をメリアにそっと近付けた。
「でも・・・」
まだ何か言おうとするメリアに、エドマンドは有無を言わせぬ顔でメリアをじっと睨んだ。
「・・・わかりました・・・」
仕方無く頷いたメリア。エドマンドは何事も無かったかのように、自室に向けて再び歩き始めた。
メリアは彼の背中をひどく心配そうに見つめている。
心なしか、彼の足取りはいつもよりも重い。
(あれだけの熱で出歩いた上に、わたしのダンスの練習まで付き合ってくださったの・・・??)
普通の者ならば、きっと起き上がることも困難だろう高熱だ。
本来ならば、きっとすぐにでも医者を呼ばなければならないものだとメリアにも判断できていた。
(お医者様だけで無く、どうしてジョセフさんにも知られたがらないのかしら・・・)
解せないエドマンドの行動に、メリアは首を傾げた。
そして、遠くなってゆく彼の背中を見つめながら、何かできることは無いかと考えあぐねていた。
「そうだわ!」