メリアと怪盗伯爵
ベッドに辿り着くまでに力尽きたのだろう。彼は床の上にうつ伏せのまま倒れていた。
「大丈夫ですか!? とりあえず、ベッドへ・・・」
慌てて駆け寄ったメリアは、彼が起き上がるのを手助けしようと彼の腕を自らの肩にまわした。
けれど、彼の反応は無い。完全に意識を手放しているようだ。
メリアの力では、彼を起き上がせることはできそうには無い。
(ど、どうしましょう・・・。やっぱり、ジョセフさんを呼ばなきゃ・・・)
そう思って部屋の扉を振り返ったメリアは、思い直して小さく首を横に振った。
誰にも言うなと言った彼には、何か訳があるかもしれないと思ったのだ。
「よいっしょ・・・」
失礼なことだとは思ったのが、メリアはベッドの上によじ登り、彼の腕を全体重で引っ張り上げようと試みる。
意識の無い男性をベッドに引っ張り上げるという動作は、予想以上の困難をきわめ、メリアは顔を真っ赤にして呻き声を上げながら何度も何度も引っ張った。
数回の失敗の末、なんとか彼の上半身をベッドに上げることに成功したメリアは、肩で大きく呼吸を繰り返している。
「ふう・・・」
大きく息をつくと、今度はベッドから降り、彼の足から靴を脱がせて片足ずつベッドへと上げた。
上着を着たままの彼はひどく窮屈そうで、額にはひどい汗が滲んでいる。
固く閉じられた目と、色味を失った頬。
余程疲労が溜まっていたに違い無い。
「すみません・・・、きっと叱られてしまうんだろうけれど」
メリアは申し訳無さそうに彼の上着のボタンに指をかけた。
せめて、窮屈な上着と首元は緩めてやりたかったのだ。