メリアと怪盗伯爵
一方、メリアは先程のできごとを思い出し、上の空。
高熱を出して倒れたエドマンドを看病した明け方、ついベッドの脇で居眠ってしまったメリアが目を覚ました頃には、ベッドの中は蛻の空。自身の肩にかけられたブランケットに気付き、そして同時に、彼は病み上がりの状態で早朝からまたどこかへ出かけて行ったのだということを知った。
その日の後、結局今日に至るまで彼とは一度も顔を合わせる機会のないままきてしまったのだが・・・。
この日も早朝からどこへやら出かけていたエドマンドだったが、パトリックが舞踏会への迎えにやってくる頃にはどういう訳か屋敷へ戻り、二人を送り出してくれたのだ。
あの日以来顔を見ていなかったメリアだったから、突然のことに驚いたこともあったが、なんとなく顔を合わせ辛いと考えたりもしていたメリアにとっては、彼の以前と何も変わらない態度にはひどく戸惑った。
何もなかったかのような振る舞いに、極めつけには「君の失態を噂で耳にすることが無いことを願う」など、皮肉まで付け加えたのだから・・・。
(本当によく分からない人だわ、エドマンド・ランバート伯爵という人って・・・)
急に親切になったり、突き放すようなことを言ったり、メリアはそんな彼に長く付き合っているパトリックという人の素晴らしさを改めて感じ入るばかりだった。
(それに、舞踏会には行かないなんて言い出すんですもの・・・。デイ・ルイス侯爵の招待を蔑ろにはできないって言っていたのに、一体どういうつもりなのかしら・・・)
メリアには舞踏会へ行けと言うくせに、自分は行かないなどと、とてもメリアの考えの及ぶものではない。全く、彼の考えは読めないばかりだ。
「それに、何より貴方の体調が心配なのだけれど・・・」
そう思わず呟いてしまったメリアに、今度はパトリックが、何か言った? と訊ねた。