メリアと怪盗伯爵


 そんなところから始まった仮面舞踏会だったが、初めはひどく平穏に過ぎていった。
 無論、パトリックの周辺にはたくさんの女性が集まり、彼の周りはひどく華やかこの上なかったが、メリアにとってはそれはひどく疲弊する要因の一つでもあった。
 
 誰にでも親切で優しいパトリック・モールディング伯爵だったが、この日は少しばかりいつもとは違っていた。美しい令嬢達に囲まれるのは嫌いではなかったが、今回ばかりはそれも少々面倒に感じていたのだ。何より、明らかに疲れて表情を浮かべているメリアがひどく気にかかった上、興味の無い女性達との他愛も無い話に耳を傾けている間に、メリアへの気配りが疎かになるのではと懸念したせいもある。
 いつもならば、相手を褒め千切って話しを引き延ばしにする行為もしたのだろうが、パトリックはそれをしようとは思わなかった。ただ、彼女達が早く満足して、別の場所へと離れて行ってくれることを期待して、なるべく自ら話を振るようなことは控えたのだ。

「どうなさいましたの、モールディング伯爵。どこか具合でも悪くて??」
 いつもとは明らかに様子の違うパトリックに、女達も尽かさず探りを入れてくる。
「いや、実はそうなんだ。やっぱり女性の観察眼の鋭さには感服させられますよ」
 パトリックは、差して具合が悪い訳でも無いのに、頭痛がするかのようにわざと眉間を押さえるような仕草をして見せた。

「まあ、やっぱり・・・! どうか、無理なさらないでね。こんな場でなければ、わたくしが看病して差し上げますのに」
 熱の篭った女性達の目に、メリアは誰にも気付かれないように小さく溜め息をついた。
「そうだね、実に残念ですよ。元気なときにまたぜひお声を」
 当たり障りないセリフに、パトリックは肩を竦めてさり気無く女性達の脇をすり抜けていった。勿論、疲れ気味のメリアの腕をとって。




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