メリアと怪盗伯爵

「すまない・・・。まさかこんな面倒なことになるとは・・・。これからは、自分の言動によく注意することにするよ」
 パトリックの口から驚くべきセリフが紡ぎ出され、メリアははい? と思わず訊ね返した程だ。
 あの執事であるセドリックが、パトリックの誰彼構わず美しい白い笑みで女性に愛想を振りまくことを思い悩んできたというのに・・・。そんな彼の口から、まさかそんな反省んも言葉が出てくるなんて、世界の天地が引っくり返るのと同じ位驚くべきことだ。

「疲れただろう? そうだ、何か飲み物を持ってこようか。何か飲みたいものは?」
「いえ、そんな・・・。自分でとりに行ってきます。パトリック様こそ何が?」
 そう慌てて返したメリアの唇に、パトリックはそっと自らの人差し指で触れ、誰もが呆けてしまうだろう甘い笑みを浮かべた。
「こういう時、女の子は素直に紳士に甘えておくものだよ?」
 真っ赤になって大きな目をパチクリと瞬いたメリアは、小さく頷いた。
 その姿を見てから、満足げににっこりと微笑むと、彼は「僕のお勧めをとって来よう。ちょっと待ってて」と言い残し、颯爽と人混みの中へと消えて行った。

「さっき、ご自分の言動にはよく注意するって言ったばかりなのに・・・」
 赤い顔のまま、メリアが独り言を洩らした。ああやって、無意識に多くの女性達をときめかせてしまうのが、彼の特質なのだろう。これは、意識してどうのという簡単な問題ではなさそうだ。
 メリアは苦笑し、人混みの中に見えなくなった彼の背中を見つめていた。

「ミス、誰かお探しでしょうか?」
 突然の声に、メリアが驚き振り返る。
 聞き覚えのある声に、長身。そして何より、神秘的な黒い髪と一目見たたけで、仮面をつけていても彼がこのパーティーの主催者だということがすぐに分かった。




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