メリアと怪盗伯爵
確かに、難しい顔をしていたメリアに落ち度はあるのだろうが、それにしてもあんまりな言い方に、メリアは少しばかりむっとしていた。
「ねえ、メリアったら。さっきから一体どうしたのよ? 顔が強張ってるわ」
テレサがメインディッシュをワゴンに載せながら、メリアに問いかけた。
「なんでもない。ちょっと、疲れただけ」
また強張っていた顔に気付き、メリアは無理矢理苦笑いを作る。
再び会食の行われている大広間へとワゴンと押してゆく中で、だんだんとモールディング伯爵への疑心が生まれ始めていた。
突然の訪問。
メリアが昨晩のことを誰にも話していないかどうかを確認する為に来たと考えれば、それ程不自然なことでは無い。
(まさか・・・ね・・・? ううん、それはきっと無いわ。だって、伯爵よ? そんな人がどうして怪盗なんてするの? そんな筈無いわ)
今度はメインディッシュを静かにモールディング伯爵の前に並べる。
緊張で指先がカタカタと揺れるのを、ひょっとすると彼はもう気付いているかもしれない。