メリアと怪盗伯爵
「デイ・ルイス侯爵」
メリアは驚きに満ちた目で彼を見上げた。
「ようこそ、ミス・メリア。今宵は貴女がわたしの招待を受けて下さり、とても感動しています」
「素敵な舞踏会にご招待いただき、ありがとうございます」
メリアは、大きくお辞儀をして精一杯の感謝の意を彼に伝えようとする。
そんな彼女を、デイ・ルイスは微笑ましいとさえ感じ入るのだった。
今まで見てきた多くの女性達は、誰もが凝り固まったありきたりな美しい言葉を並べ立ててばかり。どの女性も、好意や親しみよりも先に、”侯爵”という地位に羨望し、少しでも気に入られようと隙あらば取り入ろうとする。
そんな姿に彼自身うんざりしていた。いくら美しく着飾ったところで皆同じ類の人間にしか見えず、そんな彼女達のことを、我道を突き進む為の一道具としか見れないというのも事実だった。
そう、令嬢達は利用価値のある出世道具だった。彼女達がデイ・ルイスに心を開けば、実家の事や親類のこと、身内でなければ知りえない情報を簡単に洩らしてくれる。
そうなれば、力あるライバル達の足元を掬うのはデイ・ルイスにとっては安易なことだった。
こうして彼は今まで、数々のライバル達を踏み台にして、現地位に登りつめたのだ。
しかし、ここに来て、彼は新たな人種と運命的な出会いを果たした。
一見すると、素通りしてしまいそうな空気を纏った目の前の小柄の女性は、他の令嬢達とはどこか明らかに様子が違っていた。
他の令嬢達に比べると、華やかさはない。
けれど、その他の誰にも負けない可憐さと周囲に纏う柔らかな雰囲気は彼の興味を惹くのに十分な要素だった。
そして何より、観察すれば観察する程見えてくる彼女の謙虚さはとても魅力的だった。
天狗になった令嬢達の傲慢すらある態度とは正反対に、彼女はまるで一切の地位や権力に興味を示すどころか、謙虚な姿勢を一切崩そうとしない。
さらに言うなれば、純真無垢すらある初々しい素振りや遠慮がちに紡ぎ出される言葉、百面相のようにころころと変わる表情。その全てが彼にとって実に興味深いものだった。