メリアと怪盗伯爵
「素敵なドレスですね。可憐な貴女に実によく合っている」
突然のデイ・ルイスの賞賛の言葉に、メリアは戸惑った目を向けた。
「えっと・・・、ありがとうございます」
仮面の上からでも分かるメリアの動揺に、デイ・ルイスは顔を綻ばせた。これぞ、彼の待ち望んでいた反応に違い無かった。
反して、メリアというと、実のところこのデイ・ルイス侯爵に気まずい感情を抱いているのだった。
というのは、以前テレサの救出の為に潜り込んだアダム・クラーク男爵の屋敷での一件が未だ彼女をびくつかせる大きな原因となっていることに他ならない。
こっそり忍び込んだメリアが、危うくデイ・ルイス侯爵と屋敷の中で鉢合わせしてしまったところを、例のごとくエドマンドが咄嗟の機転で救ってくれたのだった。・・・が。そのときに彼が咄嗟についたその場凌ぎの大嘘がまさに大問題なのだ。
”アダム・クラーク男爵の弁護を引き受けた”という出鱈目を、この利口な男、アドルフ・デイ・ルイス侯爵が未だ気付いていない筈が無い。
(どうしましょう・・・。あの日のことを持ち出されたら、とてもわたしには言い逃れできない・・・。なるべく話を違う方向へ振らないと)
そんなメリアの必死な考えを他所に、デイ・ルイスが「そう言えば・・・」と口を開いた。
メリアが拙い! と思ったときには既に彼の口から言葉が紡ぎ出されていた。
「貴女のナイトの姿が見当たりませんが?」
彼が言っているのはおそらくはパトリック・モールディング伯爵のことに違い無かった。
ほっとして、メリアは胸を撫で下ろしながらなるべく自然な笑顔で返答した。
「パトリック・モールディング伯爵は、飲み物を取りに行っています」
納得のいったようにデイ・ルイスが「ああ」と頷き微笑み返した。