メリアと怪盗伯爵

 本当はまた逃げ出したい思いでいっぱいだった。
 けれど、ここで逃げ出したところで行く場所も無い。自分を保護する為にパトリックとエドマンドが身を呈して守ってくれている大きな”嘘”に、メリア自ら背を向けることなどできはしない。

 
 メリアは差し出されたデイ・ルイスの手をそっととった。
 パトリックが以前メリアに話したように、このアドルフ・デイ・ルイス侯爵という男は、今このメイグランドではもっとも力のある者であると同時に、邪魔なものはどんな方法を駆使してでも排除してしまう種類の人間だということを、メリアは深く心に刻んでいた。そう、今のようにどれだけ穏やかな口調で語りかけてきたとしても、彼の心の中はきっと見えない闇に覆われているのだから…。
 だからこそ、メリアはなんとしても身分を隠し通さねばならないのだ。
 せめて、恩人達の地位と名誉だけは守り抜かねばならない、と。




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