メリアと怪盗伯爵



 メリアは、仮面に隠されて読むことの難しい彼の心の中を、懸命に読み解こうと様子を伺っていた。
 自然な仕草で背に回された手と、彼女を完璧にリードして踊る彼には一時の隙も見当たらない。
 ただ、彼に自分の大きな嘘がバレていないかと、妙に手が汗ばみ、あれ程踊れるかどうかと緊張していたこともすっかり頭から消し飛んでいた。
 メリアの足は完全に身体に覚え込んだステップを呼吸と同じように繰り返すのみ。

「ミス・メリア、そんなに固くならないで、どうか私とのダンスを楽しんでいただけませんか?」
 そっとデイ・ルイス侯爵に耳打ちされ、メリアははっと我に返る。

(そ、そうだった…、わたし、ダンスしてたんだ…)
 慌てて楽しく振りをして、口元に作り物の笑みを浮かべる。
 そして同時に、こんなに意識しないまでに自然とステップを踏めるようになっていた自分にひどく驚く。それを手伝ってくれたパトリックと、エドマンドに大きな感謝の意を抱かずにはいられない。

「ところで、貴女のご親類は今日はどちらに?」
 ゆったりとしたワルツの音楽に合わせて、ゆったりと優雅に踊るデイ・ルイス侯爵が何気無く小さく問い掛けた。

(エ、エドマンド様の事だわ…!!)
 メリアは一瞬心臓が飛び出しそうになるが、平静を装い、また口元に偽りの笑みを浮かべた。
「エドマンドお兄様は、このところ仕事が立て込んでいるようで、このところあまりお顔を合わせていませんの…」
 今メリアに答えられる最も無難な言葉だった。少なくとも、そうなるように彼女自身懸命に頭をフル回転して選んだつもりだ。
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