メリアと怪盗伯爵



「今宵この優雅なる仮面舞踏会へお越しいただいた紳士、淑女の皆様方。
ご存知の通り、今夜は月の美しい神秘的な夜です。誰一人として、互いの正体が分からないという新鮮さと、緊張感をぜひ存分に味わっていただきたい。
一夜限りの夢に、そして愛に…。乾杯しようではありませんか!」

 仮面をつけたまま、デイ・ルイス侯爵は壇上から会場の客人へと向けて声を響き渡らせた。
 誰もがその神秘的で有能な男の声に感嘆し、すぐ様それが大きな拍手へと変わる。
 今宵、身分や家柄に囚われることなく、この会場内では自由な恋愛が一時許された訳だ。本来ならば自分の好きな相手を選ぶことさえ難しい貴族階級の男女達にとって、
デイ・ルイスの提案は願っても無いものに違い無かった。
 ワイン・グラスを会場の誰もが微笑を浮かべながら掲げた直後、今夜の獲物を狙うがごとく、会場内の空気が一度に変化した。
 異様な程の熱気。今まで言葉も交わしもしなかった仮面をつけたままの男女が、まるで磁石で引き合うかのごとく見事に対になってゆく。
 誰もが一夜限りの恋に火を点けようとしていた…。

(来い、闇の騎士…! すでに罠(トラップ)は仕掛けた。わたしの挑戦を受けに来るがいい!!)
 デイ・ルイス侯爵は会場内にすでに潜り込んでいるかもしれない謎の男に対し、心の中で呟いた。






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