メリアと怪盗伯爵
パトリックがキャサリン・デイ・ルイスと共に会場から姿を消した後、一人ぼっちになってしまったメリアは、すっかり心細くなって、誰にも気付かれないようにふうと
小さな溜め息を溢した。
その反面、デイ・ルイス侯爵がすんなりと立ち去ってくれたことに少しばかりほっとしている部分もあった。
けれど、かれこれ、こうしてもう数十分も突っ立ったまんまだ。苦手な高いヒールの靴のせいで、そろそろ足も悲鳴をあげ始めたころだ。
それに、彼の言った一言のせいで、会場内が妙な空気に包まれ、メリアは気まずいような心苦しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちでいっぱいだった。
さっきまで近くにいたレディー達は、男達に愛の言葉を囁かれ、誰もがすっかり夢心地に陥っていた。明らかに見知らぬ男女の距離が格段に近くなり、手と手を取り合う
者や、今にも口付けを交わしそうな者達までいる。
「失礼します。ミス・メリア・ジョーンズ様でございますね?」
そんなときに、突然背後から声をかけられ、メリアは飛び上がった。
「はっ、はい…??」
振り向いた先には、トレーを小脇に抱えたボウイが小さくお辞儀をした。
「驚かせてしまい申し訳ございません」
男は申し訳無さそうに詫びた。
「いえ、ところで、何か…?」
メリアがきょとんと訊ね返すと、
「実は、ミス・メリア・ブラウン様にこれをお渡しするように承っております」
男は小さなカードを取り出すと、メリアにそれを手渡した。
小さなメッセージカードには、小さく”屋敷の外で待つ エドマンド・ランバート”と書き込まれていた。
(エドマンド様…?? まさか、この会場に??)
メリアは慌てて会場を見回す。が、彼の姿が見当たる筈も無く、仕方が無いので取り敢えずは痛みの走る足を堪えながら屋敷の外へと出てみることにした。
(この舞踏会には出席しない気だと思っていたのに…。一体どうしたのかしら?)
不思議に思いながらも、メリアはゆっくりと屋敷の外へ抜け出した。実を言うと、この場違いで気まずい場所から少しでも早く立ち去りたい思いもあったのかもしれない。