メリアと怪盗伯爵

「周囲はすでに動き始めているということですわ。パトリック、貴方を慕う女性はわたくし以外にもたくさんいることをお忘れになって? 今までは”デイ・ルイス”という
名で守られていた貴方も、わたくしの婚約によりそれを失った。今や、貴方に取り入ろうとする多くの女性が機会を伺っている
ことを知っているでしょう? なのに、そんなところへ急にどこからか地方出身の貴族の娘が現れたと知ったら、彼女達の矛先は一体どこへ向くとお思いなの?」
「……まさかっ…!!」
 嫌な予感が駆け巡り、パトリックは慌てて屋敷の中へ戻ろうとする。
「ダメ!」
 キャサリンが必死な表情を浮かべ、パトリックの腕を掴んだ。
「キャサリン、行かせてくれ」
 掴まれた腕からそっと彼女の手を外そうとすると、キャサリン・デイ・ルイスは悲しそうにもう一度パトリックを見つめた。
「ダメよ、行かせない。それが貴方の為なんですもの」
 キャサリンの悲しそうな眼からパトリックは視線を逸らした。
「キャサリン、頼む。君のことは愛せないけれど、僕は今でも君を友人として好きでいたいたんだ」
 そう言ったパトリックのひどく切なげな声に、キャサリンの掴んだ手に少し力がこもる。

「例え貴方に嫌われることになったとしても、わたくしはこの手を離さないわ。
このまま貴方をあの子の元に行かせてしまえば、パトリック、貴方に危害が及ぶかもしれない…。わたくは貴方の傷つく姿は見たくないの…」
「君がそう思うように、僕もあの子が傷つくのを見たくはないんだ。すまない」
 パトリックは、キャサリンの腕を少し強く押し払うと、振り向かずに早足で屋敷の中へ戻って行った。
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