メリアと怪盗伯爵
会場内に戻ってすぐにパトリックはさっきまでとはどこか会場の雰囲気が違うことに逸早く勘付く。
明らかに、男女のペアが増えている上に、眼のやり場に困ってしまう程の距離の近さ。そして、あちこちで耳につく女達の甲高い甘えたような声と、男達の口説き文句…。
(一体どうなっているんだ……??)
そして同時に、”パトリック・モールディング伯爵”という存在が会場に戻ってきたことに気付いた女が鋭く光った。
本来ならば仮面をすることでその身分や正体さえも隠せてしまう筈が、どうやらパトリックの場合だけは別だったらしい。彼を飾る美しい洒落た仮面はいつもに増して
女達を魅了してしまったようだ。
「パトリック様、よろしければご一緒しませんこと?」
気付いたときには、既に彼の周囲には既に女性陣が群がり始めていた。
顔や身分を隠せてしまう今こそ、普段はお近付きになれないパトリック・モールディング伯爵と話すチャンスだと、きっとその心の内で考えているに違いない。
(まずいことになったな……。メリアは、メリアはどこに…?)
パトリックが群がる女性達を掻き分けるようにして会場の中を見渡すが、探し求める可憐な少女の姿は見当たらない。
「君! すまない、この辺りに僕のこれとと対になった仮面をつけた女性がこの辺りに居た筈なんだが、見覚えは無いかい?」
咄嗟に近くを通りすがったボウイの腕を半ば乱暴に掴んだことで、群がっていた女性達が一瞬息を飲むのを聞いた。
「は、はい……」
驚いた様子で見返してくるボウイは、一瞬パトリックの仮面を見つめてからふと思考を巡らせた。
「……この場で名前をお出ししていいものなのか分かりませんが……。お連れの方はもしやミス・メリア・ブラウン様では?」
パトリックは大きく頷き、
「そうだ! 彼女がどこへ行ったのか知らないか?」
ボウイはすかさず答えた。
「ミス・メリア・ブラウン様は、おそらくはもうこの会場にはおりませんかと……。ランバート伯爵からのメッセージを受け取られてから、すぐに屋敷の外へ出て行かれまし
たので」