メリアと怪盗伯爵
「なにっ!?」
 パトリックは慌てて会場の出口を振り返った。
(そんな筈は無い!!)

 その時、会場の明かりが突然全て消えた。
 不安そうな客人達のざわめきが暗闇の中で聞こえ始める。

「皆様、どうぞご心配無く。すぐ明かりをつけさせますので」
 アドルフ・デイ・ルイス侯爵のやけに落ち着いた声が会場に響く。
 これも彼の仕組んだ余興なのか? パトリックは暗くなった会場の中で目を凝らした。

「きゃあっ!!! 見て!! 闇の騎士(ダーク・ナイト)よ!!」
 一人の令嬢が甲高い声を上げたことを皮切りに、人々のざわめきは一層大きくなる。
「天井だ!! 天井に奴が!!」
 今度は男性の声だ。
 パトリックもその声につられて天井を見上げた。

 会場の外から降り注ぐ月明かりにぼんやりと照らされた天井からぶら下がる飾りに、闇に同化する古めかしいマントをはためかせ、闇の騎士はただじっとそこに居た。
 その視線の先は……。

(デイ・ルイス侯爵?)
 はっとしてパトリックは会場の扉の方に向けて駆け出した。
「メリア!!!」
 優先すべきは何よりも彼女の安全だ。今、この状況は異常としか言い様が無い。つまりは、彼女の身にいつ危険が起きてもおかしくは無いという話だ。
 パトリックは暗闇で幾人もの人々にぶつかったが、そんなことはお構いなしで扉を目指して走った。
 押し退けられた人の不満の声と、何やらが倒れてこぼれ落ちた音を後方で聞きながら、パトリックは今、メリアが安全でいてくれることだけを一身に願っていた。
「メリアっ、無事でいてくれ!!」





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