メリアと怪盗伯爵




(やはり来たか! こそドロめが)
 デイ・ルイス侯爵は予め準備していた予備の照明用ランタンに次々と火を灯させてゆく。
 
 部屋が全て明るくなるよりも前に、闇の騎士は音も無く天井から床下へと軽やかに舞い降りた。
 あまりに華麗なその動きに、客人達も呆けたように彼の姿を見つめる。

 床に着地した直後、闇の騎士は仮面で覆われた顔をデイ・ルイス侯爵へ向け、薄っすらとその薄い唇に笑みを浮かべた。
「ちっ」
 それが気に障ったのか、デイ・ルイス侯爵は誰にも気付かれることなく小さく舌打ちした。

「奴を捕らえろ!!」
 デイ・ルイス侯爵の声で、客に扮して待機していた警官達が勢い良く闇の騎士に向けて飛び掛った。
 ―が、すいっと訳も無く幾人もの警官達を摺り抜け、彼は袖口から抜き取ったカードをデイ・ルイス侯爵に向けて放り投げた。
「逃がすなっ! 出入り口を封鎖しろ!!」
 カードはデイ・ルイス侯爵の足元にパラと落下し、その瞬間と同時に闇の騎士は勢いよくガラス窓に向けて飛び込んだ。

 ガラスを突き破る大きな音とともに、闇の騎士は会場から一瞬にして姿を消した。

「逃げたぞ!! 追え!! 絶対に逃がすな!!」
 警官達の罵声と、会場のどよめき。
 やっと会場内に元の明るさが戻ってきたとき、デイ・ルイス侯爵はじっとその場で佇んでいた。
 
 闇の騎士は予告通りに現れ、まるでデイ・ルイス侯爵を挑発するかのような行動をとっていた。
 けれど、彼が一体この会場に何をしに現れたのかは不明である。

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