メリアと怪盗伯爵
飛び降りた筈の闇の騎士(ダーク・ナイト)だったが、実を言えば屋根下にぶら下がり、死角を利用して警官が諦めて引き返すまで身を隠していたのだ。
警官達の気配が屋根上から遠ざかったのを確認すると、今度こそ地面に降り立った。
が、既に彼女と怪しげな男達は馬車の近くまで移動しており、近くにはいなくなっていた。
彼は軽やかな足取りで駆け出した。馬車が出発してしまえば、いくら彼の足でも追いつくことはできなくなるからだ。
幸いにも、警官達の手はまだこの辺りには届いてはいなかった。しかし、あと数分もすれば、この辺りもすっかり囲まれてしまうことだろう。
馬車がそそくさと走り出す直前、彼は誰にも気付かれることなく、音もなく馬車の後ろにぶら下がった。
耳を澄ますと、彼女を攫った男達のひそひそと話す声が聞こえる。
「早いとこずらからねぇと、ヤバイ。さっきちらっと警官の笛の音を聞いた・・・・・・。この辺りでどうも怪盗が出たらしいぜ」
「まずいな・・・。この騒ぎでオレ達までとばっちりを受けかねねぇ・・・。こりゃ、後で値段の交渉だ。最初こんなことは計画には無かった」