メリアと怪盗伯爵

闇の騎士(ダーク・ナイト)は、勢いよく走り出した馬車の後ろに同化するかのように気配を消し去り、中の男達の話に耳を傾ける。
 馬車のには二人。そして、二人とも誰か別の者に雇われた身のようだ。差し金、金さえ払えば汚れ仕事でもやってのける、”なんでも屋”のようなものだろう。

「ん? 何か外で音がしなかったか?」
 走り出した筈の馬車の外で、何やら物音を聞いた男の一人が不審そうに首を傾げた。
「さあ、オレには聞こえなかったぜ。枝かなんか踏んずけたんだろう」
 馬の手綱を握る男はそう答えた。
 けれど、それでも納得のいかない男は、そっと馬車の窓から馬車の後方を覗く。
 ・・・・・・が、暗闇以外に何も異変は見当たらない。

「ほらな、気のせいだろう。そんなことより、今は警官に見つかる前にここをどう切り抜けるかだ」
 男達は再び声を落としてひそひそと話し始める。

 しかし、しばらくした後、また先程の男が何か物音のようなものを察知し、再び首を捻った。

「どうした?」
「いや・・・・・・。また何か音がしたような・・・・・・」
 男は、今度は閉めていた窓を開け、乗り出すようして馬車の後方を振り返った。
 何も異変は無い。
「おかしいな・・・。考えすぎか? 何か聞こえた気がしたんだがよ」
 男が首を馬車の中に引っ込めようとした瞬間、男の後頭部を何か固い物がぶつけられた。
「がっ!」
 鈍い音と呻き声とともに、窓から首を出したままぐったりと動かなくなった男を見て、馬の手綱をとっているもう一人が、
「おいっ、一体どうした!?」
と、慌てて相棒を振り返った。
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