メリアと怪盗伯爵
馬車の中でできっと何かあったに違い無いと、急に恐ろしくなった男は、青くなって相棒のもたれ掛かっている方の窓を凝視した。
しかし、それきり物音一つ起こる気配は無い。
「な、なんなんだよ、一体よ・・・・・・。って、お前も悪い冗談はよせよ。いい加減ししねぇと、まじで怒るぜ?」
青くなったまま、男は再び相棒を振り返る。しかしその直後に、一方の扉が音を立てて静かに開いた。
男が振り返った時には、馬車の中にもう一人の存在が身を滑り込ませてくるところであった。
「僕も同席させていただこう」
真っ黒な衣装に、闇に同化する黒のマント。そして、仮面で覆われたその表情から、唯一のぞく薄い唇がうっすらと笑みを浮かべていた。
「ひっ!! お前、いつの間に!!??」
男は一目で彼が誰だか分かった。
今や、このメイグランドで彼の名を知らない者はいない筈。そう、彼は紛れも無く、あの大怪盗”闇の騎士(ダーク・ナイト)”であった。
驚いて馬の足を止めようとした男に彼はこう言った。
「止まるな。警官に追われていてね、君達も彼らに捕まると拙いんじゃないのか?」
優雅な動きで何事も無かったかのように、ぐったりと意識を失っている男の横にに腰掛けると、笑みを浮かべながら闇の騎士(ダーク・ナイト)は続けた。
その目の前に、赤毛の令嬢が横たわっているのを目にしてそう言ったらしい。どうやら、闇の騎士(ダーク・ナイト)は全てお見通しのようだ。
「・・・・・・一体何が狙いだ?」
手綱を握る手に汗が噴出すのを感じながら、男は低い声で招かれざる客人にそう尋ねた。
今、まさに頭に突きつけられているのは、銃口に違い無い。
「基本的に僕は飛び道具はあまり好まないんだが・・・・・・。時と場合によっては必要なときだってあるだろう?」
闇の騎士(ダーク・ナイト)は突きつけた銃の引き金をわざと音を立てて弄んだ。
「何も。君はただ何もせずに馬を走らせ続けてくれればいい。例え何があろうとね」