メリアと怪盗伯爵

「・・・・・・誰か後ろに乗っているのか?? 何か隠しているものでもあるんじゃなかろうな?」
 警官がじっと眼を細め、ゆっくりと馬車に近付いてくる。

 警官が馬車の扉に手をかけようとしたとき、同時に内側からゆっくりと扉が開かれた。

「!!!!」
「どうも、警部補。何か問題でも?」

 警官は扉から顔を覗かせた人物を目にした途端、恐縮したように頭を下げた。

「いやはや、まさか貴方がこの馬車の持ち主だったとは・・・・・・。大変な失礼を」
 警官帽を脱ぎ、一礼すると、警官は続けた。
「実は、アドルフ・デイ・ルイス侯爵のこの敷地内であの大怪盗が出没しましてな。今、奴の後を追っていたところなのですよ」
 
「そうですか、それは大変な騒ぎですね・・・・・・。生憎、僕らは騒ぎの前に屋敷を出ましたので、現場には居合わせてはいませんでしたもので」
「それは結構結構、奴と鉢合わせずに幸いでしたな」

 警官はわざとらしく笑って見せた。
 
「・・・・・・そちらの方は、どうかなさいましたかな??」
 警官が馬車の中の異変に何か勘付いたようだ。
「ええ・・・・・・、実は彼女が急に具合を悪くしまして、今医者へ向かう最中なんですよ。ここからだと、アボット医師の宅が一番近いかと思いまして」
「おおっ、それはこんなところで足止めをしてしまい申し訳無い!!」

 警官は慌てて頭を下げると、馬車から数歩後ずさって、付き添っていた部下の馬も前方から道脇に避けるよう指示を出した。
< 204 / 220 >

この作品をシェア

pagetop