メリアと怪盗伯爵
「こちらこそ、こんな時にお役に立てず申し訳ありませんでしたね。ですが、お気遣いどうも」
どういう訳か、道をすんなりと通してくれた警官に、手綱を握る男はひどく混乱していた。
中には気を失っている令嬢と相棒が、そしてあの大怪盗の姿があった筈なのに・・・。大怪盗の姿は一体どこへ?? 今の紳士の声があの怪盗なのか?? ・・・と。
それでも、男は何も気付かない振りをして再び馬車を進め始めた。
動き始めた馬車の窓から、中の紳士が「そういえば」と、言葉を付け足した。
「警部補、役に立つ情報だかはわかりませんが、ここへ来る途中に不審な物音を聞きましたよ。・・・・・・と言いましても、ちょうど月明かりも影り、闇夜でしたので、それが
何だったかまでははっきりと見ていないので分かりませんが・・・・・・」
「何っ、それは誠ですかな!?」
警官は敬礼すると、「ご協力感謝致しますぞ」と、にこやかに返答し、馬車を見送った。
そこからしばらく走ったところで、男が堪らなくなって思い切って馬の足を止め振り返ったところ、すでに馬車の中は蛻の空だった。
赤毛の令嬢の姿も、そして気を失った相棒の姿さえも。