メリアと怪盗伯爵
しっかりとした足取りで立ち上がると、デイ・ルイス侯爵はエドマンドに向き直った。
「私の敷地内で起こったことだ。完全に私の管理不行き届きとしか言い様が無いな。彼女に怖い思いをさせてしまい申し訳無かったと伝えておいてくれるかな?」
「ええ」
階段を降り始めたデイ・ルイス侯爵を見送る為、エドマンドは静かにその少し斜め後方を付き添って歩み始める。
その様子を、ジョセフ始め、侍女達が息を呑みながら見守っている。
「彼女が心配なんですね」
呟くようなエドマンドの言葉に、デイ・ルイス侯爵は間髪置かずに返答した。
「ああ、彼女は特別だ。君こそ、彼女にとって何なんだ?」
二人とも前方を見つめている為、互いの表情は見えなかいが、どこか冷えた空気が二人の周囲を漂っている。
「遠縁の親類ですよ」
それきり、二人は黙ってしまった。
屋敷の傍で待たせてあった馬車を呼びつけると、デイ・ルイス侯爵は馬車の中に置いたままにしていた皮ケースの中から、濃い紺色に金の刺繍を施した布袋を取り出し、
エドマンドのに手渡した。
「これは?」
「これはそのシャツと迷惑料だと思ってくれ」
エドマンドが突っ返そうとするよりも前に、デイ・ルイス侯爵はそそくさと馬車に乗り込んでしまった。
「君がいらないのならば、ミス・メリアに何かプレゼントでもあげてくれ。そんなものじゃ詫びにもならないだろうが」
馬車が動き出しすと、デイ・ルイス侯爵は言った。
「私は近い将来、彼女に婚姻を申し込むつもりでいる」