メリアと怪盗伯爵
デイ・ルイス侯爵は、女王のティータイムに付き合った後、一先ず宮殿を後にした。
先程まで浮かべていた作り笑顔は既に消え去り、苛立ちが彼の中にふつふつと湧き上がっていた。
(一体女王陛下に何が起きた?)
今、デイ・ルイス侯爵は、忌々しい闇の騎士(ダーク・ナイト)の手によって、二つの命綱を握られていることになる。
一つは、例の契約書。そして、もう一つは二日前の晩に奪われたバウスフィールド公爵家の婚約指輪・・・。婚約指輪は現在のところ、まだ誰にも失ったことに気付かれては
いない。いや、気付かれる訳にはいかなかった。もし、あれを失ったとなれば、バウスフィールド公爵は憤慨し、婚約を白紙に戻すと言い出すだろう。それと同時に、今まで
築き上げてきた”アドルフ・デイ・ルイス”といういう名の信用もまた失う。
それに、何より恐ろしいのが、女王イザベラの顔を潰してしまうことであった・・・・・・。
王族の血筋であるバウスフィールド公爵との仲を取り持ってくれたのは、誰でも無い、イザベラ女王本人なのだから。
(もしや、契約書の存在に勘付かれたか・・・?? いや、指輪の方か・・・?? まさかな、あの狡賢い大怪盗のことだ、そう簡単に脅し道具を手放す筈が無い・・・!)
「デイ・ルイス侯爵、すれ違う人が貴方の顔に怯えていますよ」
ふいに宮殿の入り口辺りで脇から声がかかり、デイ・ルイス侯爵ははっとして視線を上げた。
「・・・ランバート伯爵」
怪訝そうな目でデイ・ルイス侯爵は彼を一瞥した。
「なぜ俺がここにいるかと聞きたいのでしょうね?」
どういう訳かこの宮殿にいるエドマンド・ランバート伯爵に、デイ・ルイス侯爵は不意を食らったような表情を浮かべている。
「お忘れでは無いとは思いますが、俺はアダム・クラーク男爵の弁護人ですので。最近ではよくこちらへ足を運ばせていただいています」
「なるほど」
デイ・ルイス侯爵はさも余裕あり気に紳士的な笑みを浮かべて見せた。