メリアと怪盗伯爵
「だが、もうそれも今日で最後になるだろう。彼は明日、釈放になる」
エドマンドは「ほう」と、わざとらしい声で返答した。
「どういう訳か、イザベラ女王陛下はアダム・クラーク男爵の釈放を命じられた。ひょっとして君は何か事情を知っているのでは?」
探るようなデイ・ルイス侯爵に、エドマンドは「さて」と惚けた。
「女王陛下がどうして気が変わられたのかまでは存知ませんが、弁護人を引き受けている俺としては、有り難いお話だ」
デイ・ルイス侯爵は、僅かに目を細め、そんなエドマンドを見つめた。
「では、俺はこれで。女王陛下にご報告がありますので」
一礼すると、エドマンドは颯爽と宮殿内に足を踏み入れて行ってしまった。
(そうか・・・、やはり君か、エドマンド・ランバート・・・・・・! どうやったかは知らないが、女王陛下に妙な入れ知恵をしてくれたという訳だな・・・、ふ・・・・・・、やはり喰え
ない男のようだ)
デイ・ルイス侯爵は勘付いていた。
以前から、自らを敵視しているだろう要注意人物の一人としての”エドマンド・ランバート”という男の変化に。パトリック・モールディング伯爵と、エドマンド・ランバ
ート伯爵が以前から周囲をこそこそ嗅ぎ回っていることは承知の沙汰だった。
けれど、二人は今まで一度たりと行動に移すようなことはしてこなかったのだ。それは、彼らが利口なせいもあるだろう。メイグランドの女王を味方につけたデイ・ルイス
侯爵に、真っ向から勝負を挑むなどという無謀な行動は謹んでいたのかもしれない。
それが、ここに来てエドマンド・ランバート伯爵の態度が明らかに百八十度変換した。
先程の彼の目、あれは隠すことをしない敵意丸出しの目だ。
「ミス・メリア・・・、彼女の存在が君の態度を変えさせたのか?」
デイ・ルイス侯爵は愉快そうに一人呟いた。
そう、考えられる理由はただ一つ。昨日彼の家にデイ・ルイス侯爵がおしかけたことにあるだろう。
「ただの遠縁の親類だと? ふざけたことを・・・。ではなぜわたしに嫉妬などするのだ」