メリアと怪盗伯爵
「女王陛下、ご報告に参上致しました」
この日、女王イザベラの機嫌は些か良いように思われた。
それもその筈、つい先程まで、彼女が好意を寄せるだろう男が傍にいたのだから。
「よく来たな、ランバートよ。申してみよ」
艶やかな白い孔雀の羽でつくろった扇で顔を仰ぎ、女王はいつになく明るい声で返答した。
「アダム・クラーク男爵の邸宅からは、やはり、裏取引に用いた証拠物は何も見つかってはおりません。しかし彼がその悪事に多少の関わりがあったことは否定できないでし
ょうが、どうも裏に糸を引く者が隠れているかと・・・・・・。一人で行動するにはあまりに手広く、そしてぬかりがありません。彼は主犯では無い可能性が出てきました」
「ふむ」
扇で顔のほとんどを覆うと、女王は何やら考え込む。
「では聞くが、それならば、なぜ奴は黙ったまま何も言わぬ? そなたの言うことが正しければ、とうに仲間の名を口にしていてもおかしくはなかろうに?」
エドマンドは頷き、答えた。
女王のこの疑問は、彼が予想していた通りのものだった。
「彼は口を閉ざしているには理由があります。口を開けば命が無いからですよ」
顔を覆っていた扇をぱっと取り去ると、女王は「それはどういう意味だ?」と、驚いたように聞き返した。
「彼は間違いなく、主犯の者に脅しを受けています。事実を話そうとすれば彼の命は無いでしょう。だからこそ彼はどんな不利な状況に陥ろうとも、決して口を開こうとはし
ないのです。そして、その人物とは、いつでも彼に手を下すことのできる場所にいる者。即ち、主犯はこの宮殿内に潜んでいます」
エドマンドの説得力ある説明に、女王は満足気に頷いた。
「なるほど。そなたの意見には毎度ながら感服させられるな」
「・・・有り難きお言葉・・・」
エドマンドは優雅に頭を下げた。