メリアと怪盗伯爵
「そなたが昨日わたしに勧めた通りに、アダム・クラークの身柄の拘束を解くことにした。明日の明け方、仮釈放とする命も出しておる」
「懸命なご判断でございます」
女王は、孔雀の羽の扇を台の上に丁寧に置くと、難しい表情を浮かべ、小さく唸った。
「だが、そうなると、この宮殿内に重罪人が我物顔で動き回っておるという話になるな・・・・・・。見過ごせぬ・・・」
既に、エドマンドが計画していた通りに事が動き始めていた。
あとは、女王本人が、その存在に自ら勘付いていてくれるかどうかというところにかかっている。
「・・・よし、決めた。ランバート、そなたがこの宮殿内にとどまり、真犯人を探し出せ」
エドマンドは予想外の女王の命令に、思わず静止した。
「わ、わたしがですか・・・・・・??」
「ああ。何を驚いておる? そなたは先の戦で我国に勝利を導いた英雄ではないか。そなたならばわたくしの護衛を任せるに値する」
女王の申し出は願っても無いことであった。
女王の傍にいれば、デイ・ルイス侯爵の尻尾も掴みやすいというもの・・・。けれど、それは命懸けの闘いとなることを意味していた。
「どうした、ランバート。わたくしの護衛では不満か?」
女王はひどく気が短い。これ以上返答を遅らせることは、今後にも響きかねない。
「いいえ、とんでもございません、陛下。ご命令通り、ランバートの名に懸け、陛下の護衛兼主犯者の捜索に全力を持って努めさせていただきたく存じます」
肩膝をつき、エドマンドは女王の手に口付けた。
「励むがよい」
満足そうに微笑み、女王は自らの手に口付ける男に視線を落としていた。