メリアと怪盗伯爵
メリアが出て行った後、ランバート伯爵は濡れた衣服を脱ぎ始めた。
「パトリック。お前の服を一着貸せ。どうせ休暇中にたらふく買い込んだんだろう」
「はいはい、その通り」
肩を竦め、モールディング伯爵は四角いバッグの蓋を開けた。中には色とりどりの服が何着も綺麗に畳み込まれている。
「お好きなのをどうぞ」
「これでいい」
一番上にあったセットを手に取り、ランバートは濡れてしまった残りの服も脱いでゆく。
気を利かせ、モールディング伯爵は着替え中の彼のいない方に顔を背け、言った。
「あんまり虐めると可哀相だろ? 君らしくないじゃないか」
モールディング伯爵は十年来の友人であるランバート伯爵の様子に気付いていた。
「なんのことだ?」
知らぬ顔でさっさと着替えを済ませてゆくランバート伯爵は、何食わぬ様子でモールディン伯爵を振り返る。
「普段の君ならば、他人にこれ程までに執着しない。そうだろう??」
上着を羽織ったランバート伯爵に、モールデイング伯爵が何か言いたげな様子で微笑んだ。
「何が言いたい?」
はあと溜息をつき、モールディング伯爵はランバート伯爵の肩をぽんと叩いた。
「可愛いもんね、あの子。僕も君と同じ気持ちだよ」