メリアと怪盗伯爵
「モ、モールディング様・・・?」
モールディング伯爵は、メリアの紅くなった目に勘付き、「停めてくれ」と、すぐに従者に馬車を停めさせた。
間髪置かずに、颯爽と馬車から降りたモールディング伯爵は、メリアの前で優しげに微笑んだ。
「レディーが夜道を一人で歩くなんていけない。家まで送ろう」
メリアはモールディング伯爵の申し出に、慌てて大きく首を横に振った。
「い、いえ! 大丈夫です! 普段から慣れてますから」
身分不相応な侍女が、高貴な身分の彼の馬車に同乗するなどもっての他だった。
「いいから、乗って乗って」
半ば強制的に馬車に押し込められたメリアは、動き出した馬車の中でカチコチに固まったいた。
すぐ目の前には、にこにこと微笑む優しげなモールディン伯爵の姿が。
華奢そうに見えていたが、近くで見るとすらりとした中に逞しさも相まって、まるで完璧な紳士だった。
あまりの緊張で、メリアはただ、自らの手を見つめて気を紛らわせるしか無い。
「メリア・・・だったかな?」
「へっ・・・?」
予想だにしていなかったのに、突然彼に名前を呼ばれて、メリアは驚いてモールディン伯爵を振り返った。