メリアと怪盗伯爵
「アダムが君をそう呼んでいたのを聞いていたんだ」
彼が、ただの侍女である自身の名前を覚えていたことに、メリアはとても驚いていた。
「強引に馬車に乗せてしまって申し訳無かったね・・・。君の都合もあっただろうに・・・」
申し訳なさそうに、モールディング伯爵は言った。
「いえ・・・、わたしなどが、こんな馬車に乗せていただくなんて・・・」
落ち着かない様子でメリアはきょときょとと、馬車の中を見渡す。
「君の仕事が侍女だとしても、僕にとって君はやっぱりレディーには変わりないんだ。レディーをエスコートするのは、紳士にとっては当然の事だろう?」
メリアは赤くなって俯いた。
彼に優しい言葉に、世の中の大勢の女の子達が彼に恋をするに違いない、とメリアは心の片隅で思った。
「えと・・・、その・・・。モールディング様はここで一体何を・・・?」
クラーク男爵の屋敷を出てから随分経つにも関わらず、彼がどうしてまだこの辺りにいたのかを、メリアは不思議に思っていた。
「ああ、僕かい? ちょうど、エドマンドを送り届けに行ったその帰りだったんだ。そしたら、一人歩く君の姿を見つけたものだから」