メリアと怪盗伯爵
「君は、とても真面目で一生懸命なんだね。驚いたよ」
今夜は星がよく見える、とても空気の澄んだ夜だ。
「けれど・・・、僕は一生懸命な人って嫌いじゃないな」
にこりと微笑み、モールディング伯爵はメリアに「はい」と、真っ白なハンカチーフを握らせてやる。
きょとんと見返すメリアに、彼はこう言う。
「けれど、アダムにも困ったものだね。彼は融通が利かないからいけない・・・。僕からそれとなく、君を呼び戻すよう説得しておくよ」
それを聞いた途端、メリアはぶんぶんと頭を振る。
「いっ、いけません・・・! とんでもないです・・・!」
「どうして?」
メリアが否定する理由が分からず、彼は首を傾げる。
「そんなことをしても、きっと旦那様は一度決めたことを撤回なさらないでしょうし、それに・・・」
「それに?」
気まずそうに下を向き、メリアはちらりとモールディング伯爵を盗み見た。
「モールディング様のお手を煩わせてしまいますし・・・。気分を害されるかも・・・」
「ぷっ」と噴き出すと、モールディング伯爵は手袋を嵌めた左手の拳で唇を慌てて塞いだ。