メリアと怪盗伯爵

「君は、とても真面目で一生懸命なんだね。驚いたよ」

 今夜は星がよく見える、とても空気の澄んだ夜だ。
 

「けれど・・・、僕は一生懸命な人って嫌いじゃないな」
 にこりと微笑み、モールディング伯爵はメリアに「はい」と、真っ白なハンカチーフを握らせてやる。
 きょとんと見返すメリアに、彼はこう言う。
「けれど、アダムにも困ったものだね。彼は融通が利かないからいけない・・・。僕からそれとなく、君を呼び戻すよう説得しておくよ」
 それを聞いた途端、メリアはぶんぶんと頭を振る。

「いっ、いけません・・・! とんでもないです・・・!」
「どうして?」
 メリアが否定する理由が分からず、彼は首を傾げる。
 
「そんなことをしても、きっと旦那様は一度決めたことを撤回なさらないでしょうし、それに・・・」
「それに?」
 気まずそうに下を向き、メリアはちらりとモールディング伯爵を盗み見た。

「モールディング様のお手を煩わせてしまいますし・・・。気分を害されるかも・・・」

「ぷっ」と噴き出すと、モールディング伯爵は手袋を嵌めた左手の拳で唇を慌てて塞いだ。


 
< 33 / 220 >

この作品をシェア

pagetop