メリアと怪盗伯爵
「メリア、彼女達の料理の腕はすばらしいよ。特に、お菓子を作らせて右に出るものはそうそういない。近いうちに君にも二人の特性パイをご馳走するよ」
そう言って、モールディング伯爵は涙目で項垂れるセドリックを見やる。
「で、こっちで泣いているのがセドリック。彼は僕の執事で、この屋敷のことならなんでも知っている。新しく雇った人の教育係でもあるから、きっと君にも色々教えてくれるだろう」
パリッとした黒い執事服を身につけてはいたものの、彼の態度は明らかに主人に対して許される接し方の限度を越えていて、メリアは彼が執事では無いのかもしれないと思い始めていた矢先のことだった。
「えっ、セドリックさんは執事をなさってるんですか!?」
「失礼なっ! こう見えて、わたしは立派な執事です!」
そう言ったセドリックの言葉に、モールディング伯爵は言葉を付け足す。
「そう、働き者でよく気がつく有能な執事だよ。そして、涙脆い。だけど、屋敷全般のやり繰りを任せてあるから、彼は忙しくて大抵は僕の傍にはいないけれど」
なるほど。モールディング伯爵は、これ程広い屋敷と土地を持ちながらも、自分自身の身の回りの世話をしてくれる人がいなかったのだ。