メリアと怪盗伯爵
2話 消えたナイト
埃臭い地下の物置き部屋。
短くなった蝋燭にマッチで火を灯し、メリアは彼を室内へと案内した。
屋敷の者に見られはしないかと、ひどくびくびくしていたが、どうにかここまで誰にも気付かれることなく連れて来くることができたことに、ほっとしていた。
「うっ・・・」
闇の騎士は、力つきたかのように部屋の中に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか・・・!? わたしに掴まって!」
メリアは、自分よりも長身の彼の背に腕を精一杯回し、ゆっくりと彼を立ち上がらせる。そのとき初めて、彼がぐっしょりと汗を掻いていることに気付いた。
真っ白に埃を被ったソファーの布を取り払い、メリアはそこに彼を横たえる。
先程、屋敷の外の暗闇では良く見えなかったが、艶やか茶の髪が蝋燭の明かりでゆらゆらと照らし出され、メリアは思わず目を奪われていた。
(なんて綺麗な髪なのかしら・・・)
女のメリアでさえも、彼程の髪質を手に入れることはきっとできない。
それどころか、癖っ毛の赤毛は侍女用の白い布性の被りをつけていなければ、毛先が四方八方あちこちに自由にそっぽを向いてしまうだろう。
「申し訳ないが・・・、水と布を分けてはくれないだろうか・・・」
メリアははっと現実に戻り、ゆっくりと頷いた後、慌てて頼まれた物を取りに部屋を飛び出す。