メリアと怪盗伯爵
が・・・。この後のメリアはまるで生きた心地がしなかった。
エドマンド・ランバートは、何やら気心の知れた親友に重要な相談を持ちかけに来たらしかったが、メリアが二人の為にティーをカップに注ぐ間も、そして飲み終えたそれを片付ける間も、彼は一度たりともメリアに目を向けようとはしなかったのだ。そう、まるでメリアがそこに存在しないかのように・・・。
「ではやはり、デイ・ルイスが裏で動いているか?」
「いや、そこまではまだ確証は無い・・・。だが、このまま黙って見過ごしてやる気がさらさら無い」
ちらりと聞こえた”デイ・ルイス”という名を、メリアは聞いたことがあった。
メリアの記憶が正しければ、デイ・ルイス、即ち”アドルフ・デイ・ルイス侯爵”は、貴族の中でもこのところもっとも力をつけてきている一人の筈だった。
だが、その噂はいいものばかりとは決して言えない。
わざとでは無いにせよ、主の話を許可も無く盗み聞きすることは決して良いとはいえない行為だった為に、メリアは話に夢中になっている二人の後方で静かに頭を下げ、そのまま部屋を退室することにした。
退室後、メリアはふと独り言を溢した。
「そうだった・・・。すっかり忘れていたけれど、ランバート伯爵はパトリック様のご友人だったんだわ・・・。ここへもしょっちゅう来られるということも、ちょっと考えれば分かることだったのに・・・」
しょんぼりと肩を落とし、メリアは溜息をつく。
アダム・クラーク男爵の屋敷での彼の印象は、正直なところひどいものだ。